大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和28年(行モ)9号 決定

京都市中京区先斗町三条下ル橋下町(若松町)

申立人

仮家タカ

同市同区先斗町四条上ル下樵木町

申立人

武藤キミ

同市同区三条通室町西入衣棚町

被申立人

中京税務署長

丹羽彦次郎

右当事者間の昭和二八年(行モ)第九号国税滞納処分執行停止請求事件につき、

申立人仮家タカは被申立人が同申立人に対する昭和二十五年度分所得税更正決定並に大阪国税局の同申立人に対する昭和二十六年度分所得税審査決定に基き同申立人の京都本局三二二一番の電話加入権に対する国税滞納処分

申立人武藤キミは被申立人が同申立人に対する昭和二十五年度分所得税更正決定に基き昭和二十七年十月二十四日同申立人の京都本局二六九二番の電話加入権につきなしたる国税滞納処分の各執行停止の申立をなしたるも当裁判所はその理由なきものと認め左の通り決定する。

主文

本件申立はこれを却下する。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 坪倉一郎 裁判官 吉田治正)

(参考)

国税滞納処分執行停止命令請求の申立

京都市中京区先斗町三条下ル橋下町(若松町)

申立人 仮家タカ

京都市中京区先斗町四条上ル下樵木町

申立人 武藤キミ

大阪市東区北浜四ノ一三 泉ビル内

右申立人両名代理人弁護士 山田巖

京都市中京区三条通室町西入衣棚町

被申立人 中京税務署

右代表者 中京税務署長

丹羽彦次郎

申立の趣旨

一、被申立人が同人の申立人仮家タカに対する昭和二十五年分所得税更正決定並に大阪国税局の同上申立人に対する昭和二十六年分所得税審査決定に基き同上申立人に金一八六、九二〇円也の納税を強制するため昭和二十八年三月十日中京税務署大蔵事務官森格平作成の差押調書を以て同上申立人の京都本局三二二一番の電話加入権の差押を実施したところの国税滞納処分の執行は之を停止する。

一、被申立人が同人の申立人武藤キミに対する昭和二十五年分所得税更正決定に基き同上申立人に金三二、六〇〇円也の納税を強制するため昭和二十八年 月 日中京税務署大蔵事務官鉄尾司寿男作成の差押調書を以て同上申立人の京都本局二六九二番の電話加入権の差押を実施したところの国税滞納処分の執行は之を停止する。

との御命令を請求申上ます。

申立の理由

一、被申立人は同人の申立人仮家タカに対する昭和二十五年分所得税更正決定並に昭和二十六年分所得税更正決定に基き昭和二五年分所得税にあつては申立人申告所得税額二九、一〇〇円と被申立人更正決定税額一三三、二〇〇円との差額一〇四、一〇〇円及び之に対する加算税五、二〇〇円の合計一〇九、三〇〇円昭和二六年分所得税にあつては申告税額六八、二〇〇円更正決定税額一八七、一六〇円との差額一二八、九六〇円之に対する加算税六、四〇〇円の合計一三五、三六〇円右両口合計二四四、六六〇円の国税滞納処分として昭和二十八年三月十日中京税務署大蔵事務官森格平をして申立人の京都本局三二二一番の電話加入権の差押えを実施せしめた。

然るところ後、昭和二六年分所得税の更正決定は大阪国税局の同上申立人に対する所得税審査決定により取消された。

その結果、被申立人は同上審査決定に基き申立人申告税額と同上審査決定税額との差額、七三、九七〇円と之に対する加算税三、六五〇円との合計七七、六二〇円及び前記二五年分一〇九、三〇〇円との合計一八六、九二〇円也の滞納処分を前記昭和二十八年三月十日大蔵事務官森格平作成の申立人電話加入権差押調書を以て執行すると称し昭和二十八年十一月三十日を期し右差押電話加入権の公売を決行すると通告あつた。(但し、公売決行の期日は本申立手続の完了するまで数日間延期することに本代理人と被申立人との間で諒解が成立した。)

二、被申立人は同人の申立人武藤キミに対する昭和二五年分所得税更正決定に基き同更正決定税額五七、三五〇円と申立人申告税額二六、三〇〇円との差額三二、六〇〇円及び之に対する加算税〇円の合計三二、六〇〇円の国税滞納処分として昭和二十七年十月二十四日中京税務署大蔵事務官鉄尾司寿男をして申立人の京都本局二六九二番の電話加入権の差押を実施せしめ昭和二十八年十一月三十日を期し右差押電話加入権の公売を決行すると通告し来つた。(但し、公売は数日間延期された)

三、前期被申立人の申立人仮家タカに対する昭和二五年分所得税更正決定、同二六年分の所得税更正決定大阪国税局の同上申立人に対する昭和二六年分所得税審査決定之等決定に基く被申立人の同上申立人に対する前記電話加入権差押による国税滞納処分並に被申立人の申立人武藤キミに対する昭和二五年分所得税更正決定及び同決定に基く国税滞納処分は全て違法にして無効なる行政処分であるから申立人両名は御庁にその無効確認並に之等全行政処分の取消請求の訴を提起した。然しながら前記滞納処分の執行を停止しなければ被申立人の公売により申立人等は前記電話加入権を失うことと為りその結果申立人等の営業並に生活は甚大なる支障を来し、ために蒙るべき損害の尠からざるや必然である。

果して然らば右訴訟において申立人等が勝訴の判決を受くるも損害防止の目的効果を完うすることはできない。この損害防止の目的を達成するためには右滞納処分の執行を停止する以外に方法はない。

本申立に及ぶ次第である。

疏明方法

訴状並に公売通知書を以て申立の理由を疏明する。

昭和二十八年十二月十五日

右申立人両名代理人 弁護士 山田巖

京都地方裁判所 御中

意見書

申立人 仮家タカ

外一名

被申立人 中京税務署

右代表者 中京税務署長

丹羽彦次郎

右当事者間の御庁昭和二八年(行)第一七号所得税額決定等無効確認並びに取消請求事件にかかる国税滞納処分執行停止命令申立事件につき被申立人は次のとおり意見を陳べる。

意見

本件執行停止の申立は却下さるべきである。

理由

第一、本件申立事件の本案訴訟における申立人等の請求はいずれも理由のないことが明らかであるから本件申立は許容さるべきでない。

申立人等が本件執行停止申立事件の本案訴訟において求めるところは申立人等には課税対象となる原因事実が全く存しないのに、これがあるとして被申立人がなした本件所得税の賦課処分は無効であり、この無効な賦課処分にもとづく差押処分もまた無効であるからその確認を求めるというにある。そして申立人等が本件課税処分を無効であるとする理由は要するに申立人等に帰属すべき事業所得が全くないというのであるが、課税対象たる所得の有無またはその帰属いかんはその外形や名義を離れて実体的な法律関係を調査して初めて判定されるべき事柄であつて外観上一見して明らかなものではないから、仮りに所得の有無またはその帰属の認定に誤りがあつてもその誤りは外観上明白であるとはいえない。従つて、仮りに本件課税処分につき所得の有無あるいは帰属の認定を誤つた違法があつたとしてもそのかしは外観上明白でなく本件課税処分は単に取消の原因となるに止まり当然無効とせられるべきものではない。(高松高等裁判所、昭和二六年(ネ)第四六〇号同二七年九月二九日言渡判決行政裁判例集第三巻第一〇号第一、九六六頁 参照)

けだし、行政処分の無効は単にそれが法規に違反したというのみにては足らずその法規違反が重大であり、かつ、その処分に外観上明白なかしが存在する場合をさすものと解するからである。

よつて、本件申立の本案訴訟において本件課税処分及び差押処分の無効確認を求める申立人等の請求は明らかに理由がない。

およそ、行政事件訴訟特例法第十条に規定する行政処分の執行停止の制度の認められる趣旨は違法な行政処分により権利を侵害されたとする者がその取消、変更を求める訴を提起しても特例法はこれにより処分の執行を停止しないとする関係上、後に勝訴判決を得ても既になされた処分の執行により回復し難い損害を蒙る場合もあるので、このような不都合から個人を保護するためいわば勝訴の確定判決により形成されるべき状態をあらかじめ形成しておくというのであるから前もつて本案訴訟につき勝訴の確定判決が得られることの明白でない場合には処分の執行停止が許されないことは当然である。

従つて、前記のようにその本案訴訟における請求が理由のないこと明白な本件申立は却下さるべきである。

第二、公売が執行されてもそれにより金銭で償うことのできない損害が生ずるとは認められないから本件申立は許さるべきでない。

行政事件訴訟特例法第十条にいう償うことのできない損害とは金銭によつて償うことのできない損害を意味することは判例及び通説の解しているところである。

いうまでもなく滞納処分は滞納者の財産権の自らによる処分の禁止及び公の機関による処分であり、通常滞納処分により生ずる損害は償い得る損害であつて、国は国家賠償法第一条により賠償の責に任ずることとなるのであるが、申立人等のいうように本件差押電話加入権の公売により営業ならびに生活上甚大なる支障を来たし、従つて行政事件訴訟特例法第十条にいう償うことのできない損害を生ずべき緊急の場合であるとは、極めて特殊な事情のない限り考えられない。

従つて、本件申立はこの意味においても理由のないものとして却下さるべきである。

第三、本件の執行停止は公共の福祉に反するから許容さるべきでない。

租税の収入は国家財政の見地よりして適時且つ適切になされなければならないことはいうまでもないところであるが本件申立のような滞納処分の執行停止がたやすく許されるにおいては国家財政の円滑な運用は到底期待できないのであつて、公共の福祉に反すること甚だしいといわねばならないから行政事件訴訟特例法第十条第二項但書前段の規定の趣旨にもかんがみ本申立は許さるべきでない。

添付書類

疏乙第一号証 申立人仮家タカに対する昭和二十六年七月三十日付差押調書(写)

疏乙第二号証 申立人仮家タカに対する昭和二十八年三月十日付差押調書(写)

疏乙第三号証 申立人仮家タカに対する昭和二十八年十一月二十八日付差押解除書(写)

疏乙第四号証 証申立人武藤キミに対する昭和二十七年十月二十四日付差押調書(写)

昭和二十九年二月六日

右被申立人指定代理人

大蔵事務官 葛野俊一

大蔵事務官 佐々木知祥

京都地方裁判所第三民事部 御中

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例